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Your enemy is my enemy.

 

 

「・・・・・・はあ、はあ・・・・・・」

 身体が、
動かない。こんな

   目の前の敵にはまだ全然ダメージを与えられることが出来ていなくて、ピンピンしているというのに。ブルース、こんなとき、君ならどうする?・・・・・・ああ、君なら逃げることなんてしないよね?それに君はそんなことをしなくったって、いとも簡単に敵を倒すことが出来る。
 ねえ、ブルース。僕ね、君と一緒に戦っていると、とっても心強かったんだよ。君となら、どんなウイルスも倒せるって思ってる。もし、僕が倒せないウイルスが居たとしても、君なら倒せるって。そう、信じてる。

「ブルース・・・・・・」

 

 

 



「ロックマン!」

 広い、広い電脳世界。どこか遠くでロックマンの声がした。気のせいでもいい。空耳でもいい。ロックマンにもしものことがあれば、と思うと居ても立っても居られず、広い電脳空間に飛び出してきた。
 なあ、ロックマン。オレは貴様が助けを求めるなら、どこに居てもすぐに駆けつけてやる。後でお節介だなんだと言われようが、お前のことが気になって仕方がないんだ。お前にはたくさん世話になった。たくさん一緒に戦ってきた。こんなにオペレーター以外の者と深く関わったのは、ロックマン。お前が初めてなんだ。

「うっ・・・・・・ブルース・・・・・・?」

 小さな声がしたのは、足元だった。足元を見れば、今にもデリートされてしまいそうなほど弱っているロックマンが苦しそうにオレを見上げている。かわいそうに。愛用しているバスターを装着していた腕ごと消されてしまったらしく、右腕が半分ほどなくなっている。他にも足先やヘルメットの一部がなくなっていた。こんな状態では立つことすら難しいだろう。ロックマンの小さな身体を抱え、顔を覗き込んだら、ぼんやりとした瞳と目が合った。エメラルド色の大きな瞳からは光が失われ、まったく生気が見られない。

「しっかりしろ! ロックマン!」

 オレの声が聞こえているのか、聞こえていないのか。ロックマンは俺の名前と、苦しげな叫び声を交互に繰り返すばかり。デリート寸前の身体に多少手荒オレとは思ったが、このまま見ているわけにもいかず、ロックマンの意識を戻すべく頬を何度か叩いてみた。

「ん・・・・・・、ブルース、僕は・・・・・・一体?」

「よかった。目を覚ましたか」

 軽い衝撃が良かったのか、ロックマンはパチリと目を開けた。その瞳には先ほどよりも、光がほんの少しだけだが、戻っているように見えた。
 
「・・・・・・これは?」

 悲しそうな視線の先には自身の、本来ならばあるはずの右腕があった。他にも自身の欠けてしまった部分を見渡しているようだ。
 今すぐにでも科学省へロックマンを送り飛ばし、破損してしまったデータを修復して貰えば、まだ間に合う。出来る限り早く、ロックマンを送らなければ・・・・・・!

「大丈夫だ。色々聞きたいことはあるが、今すぐに科学省に送り飛ばしてやるからな」

「そんなことしなくったって、まだ戦える」

 ロックマンの左の拳がぎゅうっと握られた。昔からコイツは頑固で、負けず嫌いなところがある。こんな状態になってまで、そんな性格を出されても困るのだが。

「何を言っている! そんな身体で戦えるわけがないだろう?!」

 お前の唯一の武器であるバスターが使えないというのに。敵の攻撃から逃げるための足が一人ではもう立てないほど脆くなっているというのに。とてもこんなボロボロの身体で戦えるようには見えない。
 
「お前が無理をして戦えば、最悪このままデリートされてしまうんだぞ? それでもいいのか?」

 半分ほど、脅しを入れて大袈裟に言ってやった。こうでも言わないと、コイツは言うことを聞かない。あと一押しでコイツも黙り込むはずだ。

「今ここでデリートされたら、お前はオペレーターの光にも、仲間たちとも会えなくなるんだぞ?」

 叱りつけるようにして言うと、ロックマンの瞳が揺れた。
 ロックマンがここで戦いを続けたいという気持ちは分かる。しかし、ここにはロックマン一人ではなく、オレがいる。後はオレに任せるという選択肢だってある。ロックマンが自分を犠牲にしてまで戦う必要などないのだ。
 ここで無理をしてデリートされてしまえば、光が、仲間が、・・・・・・オレが。どれだけ悲しむのかをコイツは分かっているのか?

「それでもいいのか?」

「そんな・・・・・・! そんなの、・・・・・・嫌だよ・・・・・・!」

「それが嫌なら、ここはオレに任せて、お前は科学省に行け」

「分かった・・・・・・。ブルース、後は任せたよ」

「ああ!」

 少々不満そうだったが、こればかりは仕方ない。大人しく言うことを聞いてもらわなければ、困る。そもそも、あんな状態で敵に勝てるとは到底思えないし、早く科学省へ行かなければ修復が遅れてしまうのだが。
 ロックマンが科学省へと飛んでいったのを確認すると同時に、愛用しているソードに力を込めた。敵はどこに潜んでいるのか分からない。地面と融合しているかもしれない。上空から襲い掛かってくるかもしれない。どういう戦い方をするのか聞いていなかったことを思い出し、悔やむ。普段ならばそういったことは必ず聞くというのに。

「フッ」

 それほどまでに、デリート寸前のロックマンを見つけて動揺してしまったということか。まったく、オレらしくない。
 ソードを構えていると、背中に怪しい気配を感じた。間違いない、敵だ。振り返って、力を込めていたソードを振り下ろす。手ごたえは、ない。

「何だ、これは・・・・・・」

 ソードをしまい、敵を見上げる。敵はウイルスの集合体で、驚くほど大きかった。しかし、それはよくよく見ればメットールやマルモコなどの雑魚ウイルスの集まりだった。
 自然にデリートされたウイルスたちが集まってこんなことになってしまったのか、誰かが人工的にウイルスをかき集めて生み出したのか。分からない。ただ、ネット警察にはこのような敵の存在が知らされていなかったことだけは確かだ。
 成る程。不意打ちでこのような敵が現れてしまっては、バトルチップを携帯しないロックマンでは歯が立たないだろう。あまりに突然のことで、恐らくオペレーターの光に助けを求めることすら出来なかったに違いない。
 こんな雑魚の集合体に、ロックマンはやられたというのか。デリート寸前だったロックマンの姿を思い出す。もう、この敵が誰が生み出したものでも、自然に生まれたものでも。何でもいい。オレがこいつを倒すことに変わりはないのだから。そんなこと、どうでもいいのだ。

「エリアスチール! フミコミザン!」

 ウイルスの集合体よりも、ずっと高く。高く飛び上がって、ソードを振り思い切り下ろす。いつもより力を込めて振り下ろした一撃は、普段よりも与えたダメージが大きかったらしく、あっけなくデリートしてしまった。もう少し苦戦すると思っていたのに。ウイルスが完全に消え去ってしまう直前に、ウイルスの一部を科学省に提出するサンプルとして保存した。今後同じようなウイルスが一般ナビを襲ってしまったら、大変なことになるからだ。
 採ったばかりのサンプルを手のひらに浮かべ、眺める。本当はロックマンを傷付けた敵の一部なんて、持ちたくない。見たくない。しかし、これもオフィシャルナビの仕事のひとつだから仕方ない。さて、今あった出来事を炎山さまに報告して、科学省に行かなければ、と歩き始めると、目の前にモニターを通して光の泣きじゃくる顔が現れた。

「ブルース!」

「光」

「ロックマンから話は聞いたぜ。お前が駆けつけてくれなかったら、デリートされていたとも・・・・・・」

「そうか。それで、ロックマンはどうなったんだ?」

「ロックマンなら今パパが修復して貰ってるよ。明日には帰ってこれるって」

「それは良かった」

「ああ、お前が居てくれて助かった。ありがとな、ブルース!」

 目じりに涙を溜めながら、何度も「ありがとう」と繰り返す光。ほら、見ろ。この光の姿が見えるか?お前がデリートされかけただけでこんなにも光は悲しみ、泣くんだぞ。お前が完全にデリートされてしまったらどうなることか。容易に想像はつくだろう?
 これからも、敵いそうにない敵と遭遇してしまったらすぐにオレを呼べ。出来るだけ早く。お前がデリートされかかっている姿など、もう二度と見たくないからな。
 遠慮はいらない。オレたちは互いに遠慮をするような性格ではないだろ。だから、助けが欲しかったらいつでも呼んでくれ。代わりにオレが(滅多にないとは思うが)敵わない敵と遭遇したら、迷わずお前のことを呼ぶ。いいだろう?オレたちは共に戦い、支え合うライバルなのだから。

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高校生か専門学生時代に書き上げたロックマンとブルースのお話。

つたない文章すぎて恥ずかしい気もしますが、供養がてらこちらにup。

いつか手直しをしてしてピクシブに上げたいです。

BGM:Be Somewhere/Busy ☜当時メモより

Your enemy is my enemy. : あなたの敵は私の敵


 

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